海外のお色気番組 イギリスの深夜テレビ文化を象徴する伝説の番組『Eurotrash(ユーロトラッシュ)』
ユーロの夜に咲いた奇才の花──『Eurotrash』が描いた“変態”と“自由”の祝祭
1993年、イギリスのChannel 4で始まった深夜番組『Eurotrash』は、まさに“常識の向こう側”を行くテレビだった。セクシーで、奇抜で、時に下品。でも、どこか知的で、風刺が効いていて、なぜか目が離せない。
この番組は、ヨーロッパ各国の“変わった文化”や“奇妙な人物”“セクシーな現象”を紹介する情報バラエティ。だがその実態は、単なるお色気番組でもなければ、単なるおふざけでもない。『Eurotrash』は、90年代のヨーロッパが抱えていた“自由”と“混沌”を、笑いとともに映し出した、まさに“深夜の文化人類学”だった。
今回は、そんな『Eurotrash』の魅力を、あの時代の空気とともにたっぷりと振り返ってみたい。
■ タイトルに込められた皮肉と遊び心
“Eurotrash”とは、直訳すれば「ヨーロッパのクズ」。だがこの言葉には、どこか愛情とユーモアが込められている。つまり、「くだらないけど、面白い」「バカバカしいけど、目が離せない」──そんな“愛すべき変人たち”を紹介する番組、それが『Eurotrash』だった。
司会を務めたのは、フランス人ジャーナリストのアントワーヌ・ド・コーヌと、ファッションデザイナーのジャン=ポール・ゴルチエ。彼らの軽妙なフランス訛りの英語と、毒舌混じりのコメントが、番組全体に独特の“ヨーロピアンな空気”を与えていた。
■ 奇人・変人・裸族たちのオンパレード
番組の内容は、まさに“世界の変わり者図鑑”。たとえば──
ドイツの全裸ヨガ教室に潜入。
オランダのセックス博物館を紹介。
スペインの“人間家具”フェチの集会を取材。
フランスの“お尻だけで絵を描く画家”に密着。
どれも一見すると“おバカ”なネタだが、取材は意外と真面目で、当事者の声を丁寧に拾いながら紹介していく。そこには、「変わっているけど、否定しない」「笑うけど、見下さない」という、イギリス的な“寛容と皮肉”の精神が息づいていた。
■ セクシーと風刺の絶妙なバランス
『Eurotrash』は、セクシーな要素も多かった。グラビアモデルの紹介、アダルト業界の裏側、フェティッシュ文化の特集など、深夜らしい“刺激”はたっぷりだった。
だが、それが決して下品にならなかったのは、番組全体に流れる“風刺”と“知的な笑い”のセンスがあったからだ。たとえば、政治家のスキャンダルをパロディにしたり、保守的な価値観を逆手に取ったりと、単なるお色気では終わらない“社会風刺”が随所に散りばめられていた。
これは、イギリスの伝統的な“皮肉文化”の延長線上にあるもので、視聴者は笑いながらも、「自分たちの常識って、実は狭いのかも」と気づかされる構成になっていた。
■ “ヨーロッパ”という多様性の舞台
『Eurotrash』が面白かったのは、単に“変な人”を紹介するだけでなく、“ヨーロッパの多様性”を浮き彫りにしていた点にある。
同じヨーロッパでも、国によって性に対する価値観、文化、表現の自由度はまったく異なる。イギリスの保守性、フランスの官能性、ドイツの実直さ、オランダの開放性──それらが番組の中でぶつかり合い、混ざり合い、時に笑いに変わっていく。
視聴者は、笑いながらも「ヨーロッパって、こんなに広くて自由なんだ」と実感する。まさに“文化の見本市”としての役割を果たしていたのだ。
■ 番組の影響と“深夜テレビ”の黄金時代
『Eurotrash』は、イギリス国内だけでなく、ヨーロッパ各国やアメリカでもカルト的な人気を博した。特に、保守的なメディアが多かった時代にあって、この番組の“自由すぎる表現”は、多くの若者やサブカルチャー愛好家にとって“解放”の象徴だった。
また、同時期に放送されていた『The Word』や『The Big Breakfast』などと並び、Channel 4の“深夜テレビ黄金時代”を築いた立役者でもある。
2007年にレギュラー放送は終了したが、その後も特番や再放送が繰り返され、今なお“伝説の番組”として語り継がれている。
■ 最後に──“くだらなさ”の中にある自由
『Eurotrash』は、決して高尚な番組ではなかった。むしろ、くだらない。バカバカしい。笑ってしまう。でも、その“くだらなさ”の中にこそ、自由があった。多様性があった。人間の面白さがあった。
今、テレビがどんどん“無難”になり、ネットが過激さを競う時代だからこそ、あの“笑いながら世界を知る”というスタンスは、改めて見直されるべきかもしれない。
『Eurotrash』──それは、ヨーロッパの夜に咲いた、奇妙で美しい自由の花だった。






















