昔のテレビ番組 トゥナイト 深夜の好奇心を刺激した“夜の報道”──『トゥナイト』が映した昭和と平成の狭間
1982年、テレビの深夜帯にひとつの異色番組が誕生した。タイトルは『トゥナイト』。それは、ニュースでもバラエティでもない、しかしどこか両方の要素を併せ持つ、まさに“深夜の報道バラエティ”だった。
今でこそ、深夜に自由な番組が放送されるのは当たり前だが、当時はまだ“テレビは家族で観るもの”という価値観が根強かった時代。そんな中で『トゥナイト』は、視聴者の知的好奇心とちょっぴり背徳的な欲望を満たす、唯一無二の存在だった。
今回は、そんな『トゥナイト』の魅力を、あの頃の空気とともにじっくりと振り返ってみたい。
■ “夜の情報番組”という新ジャンルの誕生
『トゥナイト』がスタートしたのは1982年10月。テレビ朝日が深夜帯に送り出したこの番組は、当初から“情報番組”を名乗りながらも、その内容は実に多彩だった。
政治や経済、社会問題といった硬派なテーマから、風俗、サブカルチャー、アンダーグラウンドな世界まで、まさに“何でもあり”。それを、ニュース番組のような構成で、真面目に、しかしどこかユーモアを交えて伝えるスタイルは、当時のテレビ界において極めて斬新だった。
視聴者は、昼間のテレビでは決して触れられないテーマに触れながら、「こんな世界があるのか」と驚き、「テレビって、こんなに自由でいいのか」とワクワクしたものだった。
■ 愛川欽也の存在感と“語り”の力
番組の顔を務めたのは、俳優・司会者として活躍していた愛川欽也さん。彼の語り口は、まさに“夜の語り部”そのものだった。
「いや〜、皆さん、今夜も面白いですよ!」という冒頭の一言から始まる彼のナレーションは、視聴者を一気に“夜の世界”へと引き込んだ。決して下品にならず、しかしどこか艶っぽく、そして時に社会を鋭く斬る──そんな語りは、まさに“キンキン節”の真骨頂だった。
愛川さんは、単なる司会者ではなく、番組全体のトーンを作り上げる“演出家”でもあった。彼の存在があったからこそ、『トゥナイト』は単なる深夜番組ではなく、“文化”として成立していたのだ。
■ 名物リポーターたちと多彩な企画
『トゥナイト』には、個性豊かなリポーターたちが多数登場した。中でも、山本晋也監督の「シンヤが行く!」は、番組の代名詞とも言える人気コーナーだった。
山本監督が風俗店や怪しげなスポットを訪れ、飄々とした語り口で紹介するそのスタイルは、まさに“夜の探検家”。彼の「いや〜、実にけしからん!」という決まり文句は、今でも耳に残っている方も多いだろう。
また、中島史恵さんや飯星景子さんといった女性リポーターたちも、セクシーさと知性を兼ね備えた存在として人気を博した。彼女たちが紹介する“女性の視点から見た夜の世界”は、男性視聴者にとっても新鮮だった。
企画内容も実に多彩で、風俗レポート、マニアックな趣味の世界、都市伝説、裏社会の実態、さらには“昭和の名人”を訪ねる旅まで、毎回何が飛び出すかわからないスリルがあった。
■ “エロ”と“知”の絶妙なバランス
『トゥナイト』は、いわゆる“お色気番組”として語られることも多いが、それは番組の一側面に過ぎない。むしろ、その本質は“知的好奇心を刺激する夜の教養番組”にあった。
たとえば、風俗レポートひとつ取っても、単なる紹介ではなく、業界の歴史や社会的背景、経済との関係性まで掘り下げる構成が多かった。視聴者は、笑いながらも「なるほど」と頷き、「知らなかった世界を知る」快感を味わっていた。
“エロだけでは終わらない”“笑いだけでもない”──そんな絶妙なバランス感覚が、『トゥナイト』を唯一無二の存在にしていた。
■ 時代の空気を映す鏡として
1980年代から90年代初頭にかけて、日本はバブル経済の絶頂と崩壊を経験した。『トゥナイト』は、まさにその時代の空気をリアルタイムで映し出す“鏡”でもあった。
バブル期の浮かれた風俗文化、消費社会の過熱、若者文化の多様化、そしてバブル崩壊後の閉塞感──それらすべてが、番組の中に息づいていた。
視聴者は、テレビの中に“今の日本”を見ていた。そして、そこに映る“ちょっと怪しくて、でもどこか魅力的な世界”に、自分自身の姿を重ねていたのかもしれない。
■ 終了、そして“トゥナイト2”へ
1994年、『トゥナイト』は12年の歴史に幕を下ろす。しかし、その精神はすぐに『トゥナイト2』へと受け継がれた。
『トゥナイト2』では、リポーター陣が一新され、よりバラエティ色が強まったが、“夜の好奇心を刺激する”という本質は変わらなかった。2002年の終了まで、多くの視聴者に愛され続けた。
■ 最後に──あの夜のテレビの前にいた自分へ
『トゥナイト』を観ていたあの頃、あなたはどんな夜を過ごしていましたか? 仕事帰りの一杯のあと、家族が寝静まったリビングで、あるいは学生時代の下宿で、こっそりとテレビの音量を下げながら。
あの番組には、ただの“お色気”以上の何かがありました。笑い、驚き、ちょっとした背徳感、そして“テレビって自由でいいんだ”という感動。
今、あの頃のような番組は少なくなりました。でも、あの夜の記憶は、きっとあなたの中に今も残っているはずです。
『トゥナイト』──それは、テレビがまだ“夜の冒険”だった時代の、かけがえのない証でした。


























